top of page

在宅酸素療法について

在宅酸素療法とは

 在宅酸素療法とは、Home Oxygen Therapy、略してHOT(ホット)と呼ばれる治療方法です。HOTは、日本で広く普及している在宅療法のひとつであり、1985年(昭和60年)3月に健康保険が適用となってからは殆どのケースでレンタルにて実施されています。この治療により、慢性呼吸不全や慢性心不全などの患者さまが酸素を吸いながら自宅で生活することが可能となりました。現在、日本では16万人を超える患者さまがHOTを実施しながら生活されています。

呼吸不全とは

 様々な疾患により呼吸がうまくできない状態、つまり身体の中に十分な酸素を取り入れることができない、あるいは二酸化炭素を身体の外に吐き出すことができない状態を呼吸不全といいます。こうした呼吸不全の状態が、一時的なものではなく長時間続く場合を慢性呼吸不全といいます。

呼吸不全の原因

 色々な肺の病気が原因で慢性呼吸不全は引き起こされます。近年原因として最も多いのは、喫煙により肺の組織が破壊され生じる慢性閉塞性肺疾患:Chronic Obstructive Pulmonary Disease(COPD)という病気です。次に多いのは、昔罹った肺結核やその治療のために肺が壊れてしまった肺結核後遺症という状態です。その他に、間質性肺炎、気管支拡張症、肺癌といった様々な肺の病気で慢性呼吸不全を患う可能性があります。

なぜ酸素療法を行うのか

 体に不足している酸素を補うため行います。呼吸不全を悪化させている肺の病気を治療することが最も根本的な治療法です。しかし、慢性呼吸不全の原因となる病気は元に戻らず、根本的な治療が困難なことが少なくありません。したがって、足りない酸素を補い、低酸素血症を改善するために酸素を吸入する治療(酸素療法)が行われます。

HOTの効果

・長生きできる

・息切れの改善

・心臓への負担を軽減

・入院回数を減らすことができる

・記憶力・注意力低下を改善

・生きがいのある生活を送ることができる

 酸素を補うことによってこれらの症状が改善されます。慢性呼吸不全の患者さまは常に体内の酸素が不足しています。酸素をきちんと吸うことで、からだの働きが維持され、酸素不足が解消されて日常生活に広がりが生まれます。また、酸素吸入は癖になることは決してありません。指示された流量、使用時間を守り、正しく酸素療法を実施してください。

酸素療法の対象

 在宅酸素療法の対象患者は、高度慢性呼吸不全例、肺高血圧症、チアノーゼ型先天性患者及び重度の群発性頭痛の患者などです。慢性呼吸不全例のうち、主たる基礎疾患は慢性閉塞性肺疾患、肺結核後遺症、間質性肺炎、肺癌などが対象となります。また、厚生省呼吸不全調査研究班 平成7年度報告書により、適応患者の判定にパルスオキシメーターによる酸素飽和度(SaO2)から求めた動脈血酸素分圧(mmHg)を用いても良いとされました。対象となる患者さまは慢性呼吸不全例のうち具体的に、、動脈血酸素分圧55mmHg以下(酸素飽和度が88%以下)の方及び動脈血酸素分圧60mmHg以下(酸素飽和度が90%以下)で睡眠時または運動負荷時に著しい低酸素血症をきたす方であって医師が在宅酸素療法を必要であると認めた方や、慢性心不全患者のうち、医師の診断により、NYHAⅢ度以上であると認められ、睡眠時のチェーントークス呼吸がみられ、無呼吸低呼吸指数(1時間当たりの無呼吸数及び低呼吸数をいう)が20以上であることが睡眠ポリグラフィー上確認されている症例とするとされています(厚生労働省告示および関係通知より)。

HOTはどのように行うのか

 在宅での酸素療法では、酸素濃縮器や酸素ボンベに接続されたカニューラというチューブを通して酸素を吸入します。酸素濃縮器は室内の空気から酸素を濃縮する装置で、電気で動きます。構造としては、装置内のゼオライトという吸着剤により、取り込まれた外気から窒素を除去することで高濃度の酸素を生成しています。新品の状態では、おおよそ90~96%の濃度の酸素を吐出しています(メーカーの推奨は88%以上での使用)。弊社では、定期的に患者さまのご自宅へ点検にお伺いすることで、90%以上の濃度が満たされていることを確認したものを常に提供しています

 また、外出する際は、携帯用の酸素ボンベ、または、携帯用の酸素濃縮器を使用します。携帯用の酸素ボンベは、大型の工場で空気分離により製造された液化酸素を充填所で気化し、小瓶に充填しています。酸素濃度は、充填時に99.5%以上となるよう製造されています。

オキシジェンステーション 5L-Plus 1.png
タッチワン.jpg
シンプリーゴーミニ.jpg

 コンセントに差し込む事でその場で生成する置き型の酸素濃縮器とは異なり、酸素ボンベ及び携帯用酸素濃縮器をご使用する際は残量管理が必要なため、患者様ご自身で管理を行います。下記の使用可能時間(理論値)を参考にして、外出時には十分な余裕を持ってご使用下さい。

酸素ボンベの使用可能目安.png
HP 掲載 図表一覧.jpg

HOTに必要な費用

 HOTは携帯用ボンベの使用有無、呼吸同調器の使用有無により保険点数が変動します。下記では、最も標準的な使用パターンを記載しています。

在宅酸素療法(HOT)の保険点数.png

 ここで、携帯用ボンベを使用しない場合、または、携帯用ボンベの代わりに携帯用酸素濃縮器を使用した場合は、酸素ボンベ加算(880点)と呼吸同調式デマンドバルブ加算(291点)の算定をすることはできません。

よくあるご質問

◉HOT業者による違いはなんですか

 業者によって、提供する機器やサービスの内容が異なります。患者様が医療機関へお支払いする金額は、HOTのような保険医療ではどこの病院にかかったとしても一律で同じです。しかし、医療機関がHOT業者へ支払う仕入価格には市場が導入されているため、業者によって納入価格は異なります。医療機関が仕入価格を安く済ませたい場合は、業者もその卸売価格で利益を得られるように供給内容のレベルを落とすことで対応します。よくある例としては、耐用年数を超えた旧式の濃縮機を設置する、ボンベや同調器に安価な製品(重い、使い辛いなど)を使用する、機器故障に対する夜間対応が生じた際に理由をつけて行おうとしない、などです。

 HOTはどの業者でも一律で同じだと思われがちですが、提供する機器やサービスの質を売りにしている業者もあれば、価格を売りにしている業者もあります。どの業者を利用するかでHOTの機器・サービス内容が全く異なることには留意が必要です。

◉酸素濃縮器はどのように酸素を作っているのでしょうか

 酸素濃縮器は、圧力スイング吸着装置(Pressure Swing Adsorption)を用いて酸素を生成しています。大気中には約78.1%の窒素と、約20.9%の酸素と、約1%のその他ガスが含まれています。PSA方式ではゼオライトという窒素吸着剤を用いることで、吸気口より取り込んだ空気から窒素を取り除き高濃度の酸素を生成しています。

 ここで、窒素・酸素というふるい分けは分子のサイズで行われている訳ではなく、極性の大きさで行われています。そのため、極性の大きいガスである窒素が多く吸着され、極性の小さい酸素は殆ど吸着されることはありません。しかし、あくまで、極性の大きな窒素が優先的に吸着されるため、酸素だけではなく、その他ガスの濃度も高まります。そのため、酸素濃縮器から吐出される酸素の理論上の最高濃度は約95.6%となります。

◉延長ホースはどのくらい延ばすことができますか

 酸素濃縮器の機種によって異なります。HOTをする際は、カニューラを付けたままトイレやバスルームまで自由に移動できるように濃縮器とカニューラの間に延長ホースをはませます。その際の延長ホースの長さは、殆どの機種でカニューラを含めて15m以内が推奨されています。それ以上に延長した場合は、酸素が鼻腔まで十分に届かず血中酸素濃度の上昇が阻害される可能性があります。

◉定期点検とはなんですか

 酸素濃縮器は、半年に一回の定期点検が義務付けられています。そのため、点検時期になりましたら弊社より患者様へ直接ご連絡させて頂き、日程調整をさせて頂きます。

 点検内容は、医療関連サービス振興会により定められており、濃度・流量の確認、内部・外部フィルターの確認等を行います。しかし、近年、営業目的として毎月点検を謳う業者が増えてきており、実際には外観の目視点検のみを行なっているケースが多いようです。

 濃縮機の機械故障には、事前に予兆のある機械故障と、予兆のない機械故障があります。予兆のある機械故障に関しては、半年に1回の定期点検の頻度でもしっかりと見つけることが可能です。一方で、予兆のない機械故障に関しては、毎日点検したとしても予兆を見つけることはできません。そのため、点検は何回行うかではなく、どのように行うかが重要になります。​​​

呼吸器の診察室

回答:久留米大学医学部 臨床教授 津田徹

息切れがありますか?

 坂道を昇ったりすることが、年をとってくると、きつくなってきます。 肺の機能もからだの他の部分と同じように、老化により、機能が落ちてきます。回りの同じ年の方々と比べて、あなたはどのくらい、動けますか?

 肺気腫や、結核で手術を受けた方、肺の繊維症などの病気により、息切れが起こります。肺の病気以外にも心臓の病気、貧血などでも息切れは起こりますが、まず、診察を受けましょう。特に、息切れは風邪をひいたときに強くなりませんか?また、タバコをこれまで沢山吸ってきたあなた!咳や痰、息切れで困っていませんか?

 胸のレントゲン、肺機能検査のほか、動脈血ガス検査、酸素飽和度の検査により、どの位、体の中に酸素があるか、また、動くことによって、どの程度、酸素が下がるか検査をします。その結果、酸素を使用する必要があるときは、保険医療で在宅酸素療法を受けることができます。

在宅酸素療法とは?

 快適に自宅で酸素を吸いながら、療養するためにどの位の濃度の酸素を使うか、医師が外来検査、または入院して、検討します。それと同時に、病気の説明、吸入薬などの使用方法、腹式呼吸を始めとする呼吸リハビリ、酸素機器の使用方法、呼吸器の患者さんのための栄養管理、禁煙の指導などを行います。

 医師の指示により、酸素ボンベや酸素濃縮器などを在宅酸素取り扱い業者の方から、自宅に設置に伺います。また、かかりつけのお医者さんの紹介する訪問看護ステーションから、看護士さんに自宅で看てもらうことも可能です。

 さらに最近、在宅で鼻マスクを用いた人口呼吸器療法ができるようになりました。若いときの体には戻りませんが、上手に病気とつきあうことができます。自宅に据え付けの機器の他に携帯の酸素ボンベも使用できます。「酸素を吸いながら人前に出るのは恥ずかしい」と言われることがよくありますが、息苦しい状態をがまんすると、今度は心臓にも負担がかかってきます。「酸素を吸いはじめるとくせになって、酸素が離せなくなり、体が弱ってしまうのでは?」と言う方もいますが、実際は、酸素を吸っていた方が長生きできるという結果もでています。

 在宅酸素をしている仲間と一緒に外出する、旅行することなどをとおして、病気を自分でコントロールし、積極的に生活するという姿勢が大事です。病気の治療だけではなく、このようなサポートについてもご相談を受けます。

bottom of page